中国のeコマース業界を語る上では、アリババという企業が最も有名であり、外すことのできない企業であることも事実であると思います。
実際、アリババは中国のeコマース業界でマーケットシェア第一位の企業であり、BATと呼ばれる中国のテクノロジー三大企業のひとつとも言われています。
しかし、中国のeコマース業界では、京東(JD.COM)という企業もまた非常に大きな影響力を持っており、そのマーケットシェアは、中国でアリババに次ぐ業界第二位を誇ります。
アリババグループと京東グループの大きな違いは、そのビジネスモデルにあります。 アリババが展開する淘宝網(Taobao)等は自らがプラットフォームとなることによって様々な店舗がそこで商売を行う日本の楽天市場(RAKUTEN)のようなeコマースプラットフォームサービスを展開していますが、対して京東は、自らが多くの商品を仕入れ、自社物流網等へも積極投資を行うなど、Amazonに近いビジネスモデルを採用しています。
京東はそういった強みを生かし、都市部への即日配達サービスや様々な販売サポートを展開しており、アリババグループのeコマースとは異なった角度からユーザーへアプローチを行っています。
アリババもこれまでにブロックチェーン技術を使用した様々な試みを発表してきましたが、京東もまた、2016年当時からブロックチェーン技術へ積極的に投資を行い、その応用シーンを開拓してきました。 今回の記事では、そのような京東のブロックチェーンを使用した取り組みをご紹介したいと思います。
目次
■食料品トレサビリティーにブロックチェーンを使用する京東
■食料品から偽造ブランド撲滅、そして電子伝票のトレサビリティーへ
■より開放されたブロックチェーンへ
食料品トレサビリティーにブロックチェーンを使用する京東
日本では、楽天市場やAmazon等から食料品を購入する際も、それが本当に安全なものなのかを心配することは中国より少ないのかもしれません。
しかし、中国では、食品偽装事件等が消費者の懐疑心を生み、eコマースユーザーの食品購買意欲の伸びを抑制してきたとも考えられ、そのような食品の安全に対するユーザー認識の変革は、そのままその売上に直結するものと予想されます。
京東は、自社仕入れと自社物流網といったビジネスモデルによってユーザーからの信頼を獲得しており、ユーザーはこれまでも、”京東”というサービスを信頼することによって、安全な食料品を購入することが出来ていたとされていました。
しかし、ブロックチェーン技術の応用は、そのような京東が作り上げた信頼を、より高める方法となるのかもしれません。
彼らは、2016年からブロックチェーン技術を研究しており、これまでにも既にオーストラリアから運ばれてくる牛肉のトレサビリティーにブロックチェーン技術を使用していると発表しています。
これまでにも、中国の消費者は、中国国内の牛肉が安全ではないかもしれないといった心理から、オーストラリアやニュージーランドの牛肉を好んで購入してきたのではないでしょうか。
しかし、はたして中国で”オーストラリア産”とラベルの付けられた牛肉が本当に”オーストラリア産”なのかどうか、そのような問題を証明することは非常に難しく、これまでの消費者は、たとえば”京東”といった企業やサービスを信頼することによって、その証明を中央集権化された環境で確認してきました。
京東がブロックチェーン技術を使用してトレサビリティーを行うことは、これまで”京東”という中央集権の組織によって証明されてきた”信頼”を、より非中央集権性を高めてユーザーへ提示する試みであり、それはそのまま、ユーザーからのより高い信頼に繋がるものと考えられます。
食料品から偽造ブランド撲滅、そして電子伝票のトレサビリティーへ
上記以外の試みでも京東は、トレサビリティー技術の開発に対して積極的に取り組んでいます。
例えば彼らは、中国の農業部や工信部(日本の省庁に相当)、国家質量監督検験検疫総局(AQSIQ)等と協力するなどし、政府機関と密にコミュニケーションを取りながら、より高品質なトレサビリティーサービスの実現に尽力しています。
これまでにも中国の内閣にあたる国務院は、《国务院办公厅关于加快推进重要产品追溯体系建设的意见》と呼ばれる商品トレサビリティーにブロックチェーン技術を応用する提言などを行っており、そのような姿勢からは、より信頼度の高いトレサビリティーシステムが求められていることが予想されていました。
なぜ国務院がそのような提言を行うかと言えば、その理由の一つはおそらく、信頼の出来ない商業環境では、中国という国の国内消費が抑制されるとともに、中国から信頼のできる商品が生まれることさえもが抑制され、それはそのまま、中国の国力に影響するからだと思われます。
たとえば、中国で技術を磨きブランド力を高めた企業も、一度中国でその商品を販売すれば、すぐに偽造商品が現れるといった認識がそこには存在するのかもしれません。
現在までに、京東が開発したブロックチェーンである”智臻链”(JD Blockchain Open Platform)は400を超える中国国内外のブランドとパートナーシップを締結しており、また、そこでは12000種類以上の10億件を超える重点商品がトレサビリティー可能とされています。
このようなブロックチェーンを使用したブランド品のトレサビリティーシステムは、そのまま偽造ブランドの撲滅に繋がるものと考えられます。
また、京東は、AI技術やIoT技術等を使用してこのトレサビリティーシステムを開発しており、彼らの発表によれば、このブロックチェーンを使用して今後は伝票(发票:Fapiao)の電子化及びトレサビリティーをも行うとしています。
中国の发票:Fapiaoとは、日本の領収書とはその位置づけが多少異なっており、その最も特徴的な役割は、税金(增值税)納付の仕組みが发票:Fapiaoに存在することだと思われます。
京東は中国太平洋保险(CPIC)等と共同で、この中国初の試みとなる電子伝票プロジェクトに彼らが開発したブロックチェーンである”智臻链”を使用するとしており、税金という国家の仕組みに関わるシステムに、彼らのテクノロジーが使用されることが分かります。
より開放されたブロックチェーンへ
京東のブロックチェーンを使用した取り組みは、上記以外にも、様々なプロジェクトが存在しており、その展開が今後も期待されています。
たとえば、現在の京東は、その”智臻链”ブロックチェーンプラットフォームを使用して企業等のユーザーにBaaS(Blockchain as a Service)等のソリューションを提供しています。
また、京東のブロックチェーンは、政府機関や関連する組織等と共同で運用されるコンソーシアム型ブロックチェーンとされています。
しかし、そのブロックチェーン・トレサビリティー技術の責任者である赵铭や孙海波といった人物たちは、将来的にそのコードをオープンにするなどして非中央集権性を高めたいと語っており、現在コンソーシアム型を使用する理由も、それがスケーラビリティや実際に求められる能力要求等から避けられないものであるためと示しています。
彼らは、現在のコンソーシアム型ブロックチェーンを使用したトレサビリティーシステムを、”弱”中央集権だと表現しており、それが今後、”非”中央集権へ移行可能なのか注目されます。
仮に京東が、突き詰めればユーザーからの信頼を高めるためにブロックチェーン技術を使用しているのであれば、今後のパブリックチェーンプロジェクト等で技術革新が起こるに従い、当然、より高い信頼(より高い非中央集権性)を求めて、彼らがそのブロックチェーンをパブリックチェーンとすることも、当然ありえる未来なのかもしれません。
参照 ・https://www.jinse.com/news/blockchain/229250.html ・https://www.leiphone.com/news/201807/5eiWnobPkPh2El6u.html ・http://www.lianmenhu.com/blockchain-4476-1 ・http://ledger.jd.com/index.html ・http://ledger.jd.com/about.html ・http://ledger.jd.com/news.html ・http://chain.jd.com/ ・https://www.jdcloud.com/solution/blockchain ・https://36kr.com/p/5141862.html ・http://ledger.jd.com/files/%E4%BA%AC%E4%B8%9C%E5%8C%BA%E5%9D%97%E9%93%BE%E6%8A%80%E6%9C%AF%E5%AE%9E%E8%B7%B5%E7%99%BD%E7%9A%AE%E4%B9%A6_V1.1_20180821.pdf ・https://www.jianshu.com/p/4dc891d04e87 ・https://www.8btc.com/article/181668 ・https://www.8btc.com/article/241474 ・https://www.8btc.com/article/187789 ・http://www.sohu.com/a/226339887_211762 ・https://blog.csdn.net/dev_csdn/article/details/79062081 ・https://baijiahao.baidu.com/s?id=1594086001661843025&wfr=spider&for=pc ■中国ユニコーン企業100社以上総まとめ一覧 ■【Chaitech(チャイテック)編集長の想い】チャイナ(China)とテック(Tech)に愛(ai)を込めて ■ご支援パートナー様募集と今後のChaikuruの方向性