仮想通貨・ブロックチェーンを取り巻く環境は日々変化しています。
中国が去年行ったICO規制は、仮想通貨界隈に一時的な停滞をもたらしたかも知れませんが、ことブロックチェーン技術に関して言えば、中国政府や中国企業の取り組みはとどまるところを知りません。
2018年5月、アリババが天津で開いたフォーラムで、アリババ会長のジャック・マーはこのように語っています。
「ブロックチェーンはバブルではない、しかし、ビットコインはそうかもしれない。」 また、翌月の6月25日、ジャック・マーは香港でこう強調しています。
「ブロックチェーン技術に注力するのであれば、一夜にして巨万の富を得ようと考えることは間違っている。テクノロジー自体はバブルではない、しかし、ビットコインはバブルかもしれない。」
このようなジャック・マーの言葉からは、”仮想通貨”と”ブロックチェーン技術”を分けて考えていることが見て取れます。
ブロックチェーン技術は、ビットコイン等を始めとする多くの仮想通貨の基底をなすものですが、ブロックチェーン技術を使用すれば、仮想通貨のみならず、様々な分野で様々な取り組みが可能となるとされています。
それでは、アリババという会社は、現在、ブロックチェーン技術をどのように扱っているのでしょうか。
目次
■アリババのブロックチェーン国際送金サービスが香港から始まる
■アリババが国際送金サービスを始める意味とは
■アリババは常にブロックチェーン技術の開発を続けている
アリババのブロックチェーン国際送金サービスが香港から始まる
2018年6月25日、アリババ傘下のAlipayHKは、フィリピンのGCashと共に、ブロックチェーン技術を使用した国際送金サービスを開始すると発表しました。
彼ら曰く、このブロックチェーン送金プロジェクトでは、たった数秒で香港からフィリピンへ国際送金が行えるとされており、AlipayHKとGCashは、試験運用する3ヶ月間の送金手数料を無料にするとしています。
既存の仮想通貨プロジェクトでも、国際送金サービスを展開するためのプロジェクトは存在していましたが、アリババがブロックチェーン技術を使用してこのような分野に参入したことによって、中国企業の扱うブロックチェーンプロダクトも、今後、香港を拠点にして様々な分野に広がるかもしれません。
2017年9月からこれまで、中国政府がICOや仮想通貨取引所を規制している背景には、消費者保護といった観点の他に、マネーロンダリング対策やキャピタルフライト対策が存在すると考えられます。
中国という国は、もともと、中国人と外国人を問わず、人民元の持ち出しを厳しく規制しており、2017年の中国の仮想通貨取引所閉鎖の背景には、ビットコイン等の仮想通貨を利用することによるキャピタルフライトを懸念しているのではないかといった一部の指摘が予てから存在していました。
しかし、今回のアリババの国際送金サービスでは、香港のAlipayHKを起点とすることによって、中国の人民元持ち出し規制から逃れつつ、国際送金サービスを扱うことに成功しています。
この挑戦が成功すれば、もしかすれば、今後、香港という立地を利用したその他の中国企業の様々なプロジェクトが発展していく可能性も存在するものと考えられます。
香港という地域は、中国の一部ではありますが、その歴史的な背景から、一国二制度という構想が採用されており、現在の香港は、中国の法規に縛られない、香港地域独自の自治や通貨発行が可能となっています。
そのような背景から、2017年の「9月4日の暴風雨」と呼ばれるICO規制以降、中国の多くの仮想通貨プロジェクトや、仮想通貨取引所が、香港にプロジェクトの拠点を移していたという事実も存在しています。
これまでは、仮想通貨という枠組みの中で、様々なプロジェクトが中国の規制から逃れるために香港やその他の地域へプロジェクトチームを移動させるといった事が目立っていましたが、アリババのAlipayHKが、今後、ブロックチェーンを使用したサービスを香港を拠点にして様々な国や地域へ広げることが出来れば、アリババ以外の中国企業も、同じように、ブロックチェーンを使用したサービスを香港やその他の地域を拠点として、中国国外に開拓していくようになるかもしれません。
アリババが国際送金サービスを始める意味とは
現在の世界では、17億人もの人々が銀行口座を持っていないとされています。
しかし、発展途上国を含め、多くの人々の手元には、現在、スマートフォンが普及しています。 これまでも、様々な仮想通貨プロジェクトにおいて、上記のような指摘はなされていましたが、ブロックチェーン技術を使用した非中央集権的な仮想通貨が、そういった銀行口座を持たない人々の手元に届き、実際に日常生活に使用されるためには、スケーラビリティ問題やセキュリティ問題等、様々な課題が存在することが浮き彫りとなっています。
アリババが今回展開するブロックチェーン技術を使用した国際送金サービスは、アリババという企業の展開するブロックチェーンによって、スケーラビリティやセキュリティの課題を克服しつつ、透明性をもった資金の移動が確認できるとされています。
この記事では、ビットコインのような非中央集権的な仮想通貨が優れているのか、アリババのような企業を主体としたブロックチェーン送金サービスが優れているのか、そのような問題を議論するつもりはありません。
技術は日々進化しており、ユーザーは、その時に何を求めるかによって、仮想通貨を使用するのか、企業の提供するサービスを使用するのか、判断しなくてはいけないのだと思います。
ただし、アリババが香港にて立ち上げた国際送金サービスは、今後、上記のような銀行口座を持たないスマートフォンユーザーにも受け入れられる可能性が存在します。
当然、将来のどの時点かで、ユーザーが支持するものが、アリババではない他の企業によるサービスになっているかもしれませんし、もしくは仮想通貨になっているかもしれません。
しかし、アリババという、中国のスマートフォン決済サービスを切り開いた巨大企業が、今、香港で、ブロックチェーン技術を使用した国際送金サービスを開始したことは、将来のブロックチェーン送金サービスを考える上で非常に大きな意味を持つものではないでしょうか。
国連世界観光機関(UNWTO)によれば世界の海外旅行者数は年々増加しており、また、グローバル経済に伴った国境を超えた人の往来は今後も増えていくものと考えられるため、金額の大小にかかわらず、国際送金サービスの需要はこれからも常に存在していきます。
香港を拠点としたアリババAlipayHKが、今後、フィリピンのみならず、他の国や地域へもそのサービス網を広げられるのか、注目してみたいと思います。
アリババは常にブロックチェーン技術の開発を続けている
アリババは、これまでにも、常にブロックチェーン技術への投資を続けており、公益寄付金トレサビリティーや、越境EC食品のトレサビリティー、医療情報へのブロックチェーン技術の応用等、様々なプロジェクトを進めてきました。
2017年に取得された世界のブロックチェーン特許数ランニングでは、アリババが43件でトップに立ち、2位のバンクオブアメリカの33件を単独組織として上回っています。(傘下の研究所等の数字を合算すれば中国人民銀行がアリババを上回りトップに立っています)
また、アリババグループのアント・フィナンシャルは、2018年に140億米ドルに及ぶ資金調達に成功しており、彼らは、その資金を、ブロックチェーンと人工知能(AI)、IoTの分野の技術開発に使用するとしています。
アント・フィナンシャルCEOの井贤栋は、ブロックチェーン技術の中でも、特にクロスチェーン技術とスケーラビリティ対応技術への研究開発を続けると語っています。
今後も、アリババからは、新しいブロックチェーンプロジェクトが誕生することになるのではないでしょうか。
香港に飛び出した彼らは、すでに、中国のみならず、世界という枠組みのなかで、ブロックチェーンという技術を使おうとしているのかも知れません。
参照 ・http://finance.sina.com.cn/blockchain/roll/2018-06-08/doc-ihcscwxa5205611.shtml ・http://www.aastocks.com/sc/stocks/news/aafn-news/NOW.880007/1 ・http://v.techweb.com.cn/finance/2018-01-15/2628924_2.shtml ・http://baijiahao.baidu.com/s?id=1603035698313952199&wfr=spider&for=pc ・http://www.sohu.com/a/240186479_104421 ・http://www.sohu.com/a/227432172_100096866 ■中国ユニコーン企業100社以上総まとめ一覧 ■【Chaitech(チャイテック)編集長の想い】チャイナ(China)とテック(Tech)に愛(ai)を込めて ■今後のChaitechの方向性