中国政府は、現在、中国国内でのICOを禁止し、仮想通貨取引所の営業も取り締まっています。
しかし、実際的には、2018年になった現在でも、中国のプロジェクトチームによる多くのICOが中国国外で行われているとともに、中国の仮想通貨取引所は、その運営チームを海外に移すなどして運営を続けており、中国政府の規制を逃れるように、中国の仮想通貨プレーヤー達はその活動を積極的に継続しています。
また、一方で、中国政府は、「仮想通貨」と「ブロックチェーン技術」を切り離して政策を決定しているという指摘は、2018年になって日本内外でも少なからず語られており、今後も、そのような中国政府の姿勢は続くものと考えられます。
この記事では、2018年上半期までの中国政府動向を振り返り、今後の中国政府の仮想通貨・ブロックチェーンへの姿勢や取り組みを予想してみたいと思います。
目次
■2017年までの動向
■2018年上半期の動向
■中国以外の世界の動向と中国の比較
■今後の予想
2017年までの動向
まず、中国は2016年当時、中央銀行となる中国人民銀行がデジタル通貨の研究を始めており、ブロックチェーン技術という新しいトレンドに触手を伸ばしていたことが確認できます。
また、中国人民銀行に連なる研究所は、当時、ブロックチェーン技術に関わる暗号アルゴリズム等の研究者を招聘しており、ブロックチェーン技術によって既存の経済や貨幣のデメリットを克服できるのではないかといった可能性を論じています。
そして、中国の国務院(日本の内閣に相当)は、当時から、十三五計画(十三五规划:2016~20年までの中国の第13次5カ年計画)の国家信息化プロジェクトにおいて、 ブロックチェーン技術を、AIやビッグデータ、IOT等と並ぶ戦略的な重要分野と定めています。
しかし、そのようなブロックチェーン技術への積極的な姿勢とは裏腹に、中国政府の仮想通貨に対する姿勢は、2017年9月から、規制を基軸とする厳しいものとなっています。
2017年9月4日、中国人民銀行は、ICOを非合法な資金調達と定め、中国全土で禁止する事を発表しました。
現在の中国では、この2017年9月4日のICO禁止から続いた仮想通貨市場の混乱を、”九四”や”九四风暴(9月4日の暴風雨)”と呼んでおり、そのインパクトは大きな物であったことが伺い知れます。
そして、当時の中国の仮想通貨取引所もまた、ICO禁止の観点から、法定通貨である人民元と仮想通貨を交換する業務を停止させられ、トークンに価格を付けたりICOの仲介を行うこと等を禁止されています。
2018年上半期の動向
冒頭でもご説明したとおり、そのような「9月4日の暴風雨」と呼ばれる混乱を経たあとも、中国の仮想通貨プレーヤー達は海外に活動の拠点を移し、継続的な発展を続けています。
プロジェクトや取引所によっては、プロジェクトチームや運営チームの一部もしくは大部分を中国に残し、形式上だけ海外で活動しているとされる仮想通貨プレーヤーも存在しており、現状、中国の規制当局も、そのような仮想通貨のグレーゾーンに対して強硬姿勢を打ち出してはいません。
このような、「グレーゾーンによって発展を続ける中国の仮想通貨」は、2018年上半期現在の中国の仮想通貨のトレンドであり、後述する理由から、こういった姿勢はまだしばらく続くのではないかと考えられます。
一方、2018年上半期の中国のブロックチェーン技術に対する姿勢は、2016年から続く研究・開発を更に加速させています。
現在までに、中国では、以下のような幾つかのブロックチェーン工業団地が設けられており、これらの地域ではさらなる中国の国家資本からの投資やファンド立ち上げが続くものとみられます。
- 上海智力产业园
- 杭州区块链创业创新基地
- 重庆(重慶)渝中区块链创业产业园
- 江西南昌先锋军民融合创新基地区块链技术与应用研发中心
- 广州越秀国际区块链产业园
上記の中でも、杭州のブロックチェーンイノベーション基地は、アリババのお膝元といえる土地柄を活かした様々な取り組みが行われることが予想されており、現状、中国のテクノロジー界隈で最も注目される地域となっています。
また、上記以外にも、中国では、山东青岛“区块链+”创新应用基地、新疆伊宁区块链产业基地等の新しいブロックチェーン工業団地設立が進んでおり、海南島等の立地的な規制緩和が進みやすい地域を含め、今後も地方政府を巻き込んだイノベーションへの挑戦が続いていくものと考えられます。
中国以外の世界の動向と中国の比較
「9月4日の暴風雨」とさえ呼ばれる2017年の中国ICO規制は、中国のみならず、日本を含めた多くの仮想通貨プレーヤーたちに、中国政府が仮想通貨に対して否定的な態度を示したと印象付けたのではないでしょうか。
しかし、なぜ中国がICOや取引所を禁止・規制したのかを予想すれば、中国だけではない、アメリカや日本を含めた国家という組織が、今後、仮想通貨に対してどのようなルールを設けていくのかを予想できるかもしれません。
まず、中国のICO規制の背景には、消費者・投資家の保護という最大にして絶対の目的のが存在するものと考えられます。
中国では、様々な金融商品やフィンテックが発展していますが、その発展の背後には、「9月4日の暴風雨」であるICO規制と同じような強硬的な突然の規制もこれまで多く存在してきました。
中国政府が、もしも金融商品やフィンテック、仮想通貨、その他テクノロジーの成長を阻害しかねない規制を、突然に強硬にでも発動させなければ、それらの熱狂は、ときとして多くの消費者の富を奪いかねません。
そして、富を奪われた市民の不満の矛先がどこに向かうのか、そういった視点は、中国では常に気にされる事柄なのかもしれません。
ICOも、その多くが詐欺同然だと批判されることも多く、当時の中国政府は、消費者保護・投資家保護のため、強硬的なICO規制に乗り出したものと考えられます。
また、次に、仮想通貨取引所規制の背景には、マネーロンダリング対策等が存在すると考えられます。
中国は、自国の経済及び物価その他をコントロールするため、元来から人民元を厳格にコントロールしており、中国国民及び外国人が、人民元を中国国外に持ち出すためには、これまでにも多くの規制が存在していました。
KYC(Know Your Customer:顧客確認)の整っていない仮想通貨は、そういった中国政府の人民元政策をすり抜けることが可能であったため、マネーロンダリング等、不正な用途に使われる可能性も以前から指摘されており、キャピタルフライトリスク等も考えれば、当時の状況を規制することは一定の必要性があったことも事実であると考えられます。
つまり、消費者保護とマネーロンダリング対策、これら2つの視点が、中国が「9月4日の暴風雨」として規制を行った背景であると考えられます。
そして、また、今後は、アメリカや日本でも、消費者・投資家保護とマネーロンダリング対策を基軸とした仮想通貨を巡る規制と緩和が行われるものと予想されます。
それがどのような国家であろうとも、消費者・投資家保護とマネーロンダリング対策をせずに仮想通貨を野放しにすることは、ありえないことなのかもしれません。
今後の予想
上記のような視点にたてば、中国の「9月4日の暴風雨」もまた、完全なる仮想通貨の否定ではないという可能性が存在することをご理解いただけるかと思います。
これまで述べたとおり、現在の中国では、「仮想通貨」と「ブロックチェーン技術」を切り離して政策を決定していることは確かだと考えられます。
しかし、同時に、消費者・投資家保護と、KYC等を含めたマネーロンダリング等の対策がきちんと整備されれば、再び中国国内での仮想通貨取引が開始される可能性も存在していると考えられ、そのときには、現在は海外で活動している仮想通貨プレーヤーたちも、中国本土へ戻ってくるかもしれません。
仮想通貨は、中国のみならず、世界的に、その存在をどう定義するか未だ議論が繰り返されているため、今後も、国家という組織がどのように仮想通貨・ブロックチェーンを扱うか、注意深く観察する必要があると考えられます。
参照 ・http://baijiahao.baidu.com/s?id=1605235171231438007&wfr=spider&for=pc ・http://finance.sina.com.cn/blockchain/coin/2018-07-13/doc-ihfefkqr2956323.shtml ・http://www.8btc.com/bitcoin-futures-volume-spike-as-cboe-awaits-etf-decision ・https://wallstreetcn.com/articles/3321126 ・https://zhuanlan.zhihu.com/p/35745612 ・https://www.jinse.com/lives/34709.htm ・https://support.yunbi.com/hc/zh-cn/articles/115004886507-2016-%E5%B9%B4%E5%BA%A6%E5%8C%BA%E5%9D%97%E9%93%BE%E5%8D%81%E5%A4%A7%E4%BA%8B%E4%BB%B6 ・http://baijiahao.baidu.com/s?id=1596342437616879994&wfr=spider&for=pc ・https://www.zhihu.com/question/65293578 ・http://tech.sina.com.cn/roll/2018-03-25/doc-ifysqsxk8222559.shtml ・http://8btc.com/thread-84327-1-1.html ・http://tech.sina.com.cn/it/2016-12-28/doc-ifxyxury8985383.shtml ■中国ユニコーン企業100社以上総まとめ一覧 ■【Chaitech(チャイテック)編集長の想い】 ■今後のChaitechの方向性